THEATER MILANO-Za

year

2024

location

東京, 日本

architect

永山 祐子, 高須 咲恵

method

乾式プレス成形

volume

使用面積 190m2

photographer

photo 1. Keizo Kioku, photo 2&3. Daici Ano

永山 祐子さんへのQ&A

今回オリジナルタイルを導入してくださったスペースは、どのような空間でしょうか。

新宿・歌舞伎町にオープンした、地上48階地下5階建て「東急歌舞伎町タワー」の6 – 8Fにある客席数約900、自由なレイアウトが可能な劇場です。「THEATER MILANO-Za」は、かつてこの場所にあった新宿ミラノ座の名を継承して名付けられています。

2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか?また、さまざまな素材がある中で、タイルを使用することにしたのはなぜでしょうか。

劇場「THEATER MILANO-Za」のホワイエの床仕上げに使用させていただきました。タイルは独特の風合い、質感を持っており、個性のある素材です。空間に個性を持たせたい時に使用しています。最近は特に、マテリアルを選ぶときに、よりフィジカルに訴えかける質感を大切にするようになりました。バーチャル空間も私たちの日常に当たり前に使われるようになりましたが、手触りなど五感に訴える質感は、リアル空間だからこそ得られる体験につながります。

3. オリジナルタイルをデザインをする際に、特にこだわったポイントはどのような点でしょうか。

光との関係です。光の当て方によって陰影、反射が変わるのでその点を一番意識しました。表面の凹凸の微妙な差異、釉薬の濃さの微妙な差異でガラッと印象が変わるので最後のイメージをどこに持って行くのかを決めるのはなかなか大変でした。

4. 実際に、多治見でタイルを制作された感想をお聞かせください。多治見で製造するタイルの良さとは何でしょうか。もしお気づきの点があれば合わせてお聞かせください。

本当にたくさんの試し焼をしていただきました。それほど量の多いオーダーではないにも関わらず、空間の大事なポイントであったので、私たちもこだわり、無理を言ってきましたが、それに丁寧に答えてくださいました。

5. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていますか?または、タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば教えてください。

タイルはとてもサスティナブルな素材です。土を焼いて作るという基本的な製法で作られるタイルは紀元前からずっと継承している素材です。リノベーションする際に古民家に現場調査に入ることも多いのですが、他の素材が風化する中、タイルだけは貼られた時の記憶を持ったままそこに存在し続けているのを目にします。風化して色を失った世界にハッとするような色を有したまま存在するタイルの光景が強く記憶に残っています。



永山 祐子 / 永山祐子建築設計
1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998−2002年青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2020年~武蔵野美術大学客員教授。主な仕事、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」、「丘のある家」、「カヤバ珈琲」、「木屋旅館」、「豊島横尾館(美術館)」、「渋谷西武AB館5F」、「女神の森セントラルガーデン(小淵沢のホール・複合施設)」「ドバイ国際博覧会日本館」、「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」、「JINS PARK」など。国内外で受賞多数。yukonagayama.co.jp



高須 咲恵さんへのQ&A

1. 今回、劇場のホワイエの床にタイルをメディアにアートワークを制作されました。設計の永山さんからは具体的にどのような依頼、希望があったのでしょうか。タイルを用いることは前提条件でしたか?

永山さんが設計された空間や印象的な壁面照明、そして劇場という空間であることから、ホワイエには人が集まる広場のような役割があると思いました。そこで、元々は、タイル作品の想定ではありませんでしたが、劇場入り口からホワイエまでのタイル空間を作品にして、普段、美術館などアートのある空間ではできない、作品に触れたり、踏むという行為が可能な場所にしました。

2. 作品のテーマを教えてください。

タイトルは patchwork my cityです。床タイルに、巨大な手や足跡、鍵などの絵柄をレーザー切削で削り出しました。特にホワイエの巨大な掌は指紋に重ねて東京の地図やドローイングをコラージュしていて、巨大な地図の上を歩きまわるように作品を鑑賞することができます。二階からホワイエを覗き込むと巨大な手の全貌が見え、自分がそこにいた時には見えなかった図像が見えるようになっています。演劇がかつて広場、有象無象が行き交う公共空間で生まれてきたことから着想を得ており、タイルが続く床自体が広場となって人が歩きながら鑑賞できる作品です。

3. 作品を作る上で特にこだわったポイントがあれば教えてください。また、タイルを用いて作品を作るプロセスにおいて面白かったこと、発見したことや、逆に難しかった点などがれば教えてください。

最大で全長12mの図像を作り出すために683枚のタイルを使用しています。レーザー切削したタイル1枚1枚の釉薬のかかり具合や、レーザーの具合によって出現する図柄が変化したため、683枚全て並べて、1枚1枚様子を見ながら手彫りやレーザーで再調整をしました。人間と機械の両方の力を併せた作品だと思います。

4. 多治見のタイル製造の良さ(強みなど)とはなにか、もしお気づきの点があれば合わせてお聞かせください。

タイル切削を用いた巨大なタイル作品制作について、技術者の方と終始相談しながら実現に向かうことかできました。この作品自体が今振り返っても困難と発見の繰り返しだったと思いますし、最後まで貫徹していただいたことを感謝し嬉しく思っています。

5. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていますか?または、タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば教えてください。

割れるというイメージを持ちながらも外壁や人に踏まれる道に使用されています。制作や補修の効率を考えるとアスファルトやモルタルなどよりも効率が悪いところや、平面的でありながらタイル自体に重量もあり、1枚ずつの釉薬も微妙に異なるところが面白く気に入っています。釉薬を含め考えるとカラーリングは無限で、タイルそのものに色気がある稀有な建材だと思います。



高須 咲恵
2012年SIDE COREとして活動開始。公共空間におけるルールを紐解き、思考の転換、隙間への介入、表現やアクションの拡張を目的に、ストリートカルチャーを切り口として「都市空間における表現の拡張」をテーマに屋内・野外を問わず活動している。



edit. Nao Takegata / daily press

APARTMENT HB

year

2024

location

ベルリン, ドイツ

architect

Pasztori Simons Architekten (Tile: Max Lamb)

method

鋳込成形

volume

使用面積 18m2

photographer

photo: Sebastian Schels

hinceタカシマヤ ゲートタワーモール店

year

2024

location

愛知, 日本

architect

Yoonkyung Jung

method

乾式プレス成形

volume

使用面積 31m2

photographer

photo: Masato Suzuki

Yoonkyung Jung(ユンギョン・チョン)さんへのQ&A

1. 今回オリジナルタイルを導入してくださったショップは、どのような空間でしょうか?空間自体のデザインコンセプトもありましたら合わせてお願いします。

“hince“は、密度の高い豊富なカラーで一人一人の特有な雰囲気を作り上げ、潜在的な本来の美しさを表現する“Mood-Narrative”をコンセプトとするメイクアップブランド。自らの信念に確信をもち、より情熱的に生きる人生にインスピレーションを与えるブランドです。それぞれの人に備わる美を重んじる“hince”にとって、名古屋のタカシマヤゲートタワーモール店にブランドのアイデンティティをもたらすという意味で、タイルはとても興味深い素材でした。全て同じ形、色、サイズに見えるタイルですが、釉薬をかけて焼成すると、全く同じものはなく、それぞれの味わいが生まれます。
個々の美しさを高め、店舗ごとのアイデンティティを確立するために、”hince“は店舗をデザインする際にいつもその土地のものを取り入れるようにしています。TCTは名古屋に近い地域にあり、タイルという物質の中に”hince”の物語が含まれていて興味深く感じました。

2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか?また、さまざまな素材がある中で、タイルを使用することにしたのはなぜですか?

タカシマヤゲートタワーモール店では、売り場のほぼすべてがタイルで出来ています。ブランドのアイデンティティを間接的に伝えられると考えたのが、タイルを採用した主な理由です。タイルという素材はとても面白いと思いました。一見するとタイルは同じ色、同じ形に見えますが、高温で焼成することで、サイズや釉薬の色に微妙な変化が起こり、一つ一つがユニークなものになります。

3. オリジナルタイルをデザインする際に、特にこだわったポイントはどのような点でしょうか。

今回私たちは、直接オリジナルタイルをデザインしていませんが、イ・カンホとTCTのコラボレーションタイルをこの店舗で使用することにとても興味を持ちました。お客さまにブランドのアイデンティティを奥深く届けられたと思います。

4. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていましたか?今回の制作で、タイルという素材について何か新たに発見したことや感じたこと、可能性などはありましたでしょうか?

TCTとタイル制作をする間、釉薬を施すことで更にテクスチャーが変わることを知りました。また、さまざまな形状を使えば、内装・外装の仕上げに限らず、もっといろいろなデザインを生み出すことができ、アート作品のメディアとしても活用することができると知りました。

5. 実際に、多治見でタイルを制作された感想をお聞かせください。多治見でタイルを製造することの良さ、ここがおもしろかった、驚かされたなど、もしお気づきの点があればお聞かせください。

デザイナーの意図をしっかり理解してくれ、プロの技で正確に制作してくれました。TCTデザイナーが思い描いたものを正確に表現できる、大きな可能性の空間を提供してくれています。

hince
密度の高い豊富なカラーで個々の特有の雰囲気を作り上げ、潜在している本来の美しさを発現させるという意味の「Mood-Narrative」をコンセプトに、2019年1月に韓国で誕生したメイクアップブランド。日本では2019年からオンライン販売を開始し、2022年11月に日本初の直営店「hince ルミネエスト新宿店」、2023年5月には「hince ルクアイーレ店」、そして2024年4月に「hinceタカシマヤゲートタワーモール店」をオープン。オンラインとオフラインの両軸でさまざまなチャネルで展開中。


edit. Nao Takegata / daily press

LULLA

year

2024

location

神奈川, 日本

architect

I IN

method

押出成形

volume

使用面積 65m2

photographer

photo: Tomooki Kengaku

I INさんへのQ&A

1. 今回オリジナルタイルを導入してくださったショップは、どのような空間でしょうか。空間自体のデザインコンセプトもありましたら合わせてお願いします。

鎌倉の材木座海岸を一望でき、海、砂浜、空との一体感を感じる圧倒的なロケーションに立つ3階建ての建物「LULLA(ルラ)」は、ライフスタイルブランド「SEA ROOM LYNN」のオーナーのレジデンスです。空間そのものから、オーナーとブランドの凛とした個性が感じられるようなデザインにしたいと考え、レイアウト、素材、家具、ディテールのすべてにおいて、エレガントで、ユニークで、堂々としていて、柔らかく、そして新たな提案がある空間をつくりました。

この建物の3Fのフロアの半分近くを占める、海との一体感を感じるオープンなバスルームにオリジナルタイルを導入しました。シャワールーム、バニティーカウンターからバスタブまで、水と関わるためのスペースがシームレスに繋がっています。ファッションが布と糸でデザインを楽しむことであるように、オリジナルで製作をしたピンクのタイルに、黄色い目地を流しました。

2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか? また、さまざまな素材がある中で、タイルを使用することにしたのはなぜでしょうか。

バスルームの大きな窓の外に広がる海と空、たっぷりと入ってくる太陽の光。自然の光や風景と呼応するように、自然な表情をもつ素材をこの空間に用いたいと考えました。かつ、バスルームとしての清潔感もバランスよく表現したかったのと、人が体で経験する素材として、優しい手触りも大切と考えました。

Tajimi Custom Tilesで制作したタイルは、土から人の手を介して出来上がっていることが想像できるほど、柔らかなタイルです。開放的な空間の中で、揃っているけど不揃いな優しい表情が魅力的なタイルで、洗面、シャワー、バスタブがひとつに繋がっています。

3. オリジナルタイルをデザインする際に、特にこだわったポイントはどのような点でしょうか。

バスルーム空間全体をタイルで設える計画だったので、床、階段、壁面、腰掛けなど、複雑に展開される多様な形状の随所の収まりが気持ち良く見えるように、さまざまなバリエーションの役物を製作しました。一つ一つのタイルの色味の微妙な変化も手助けして、全体感として優しい表情で空間が一つに繋がりました。

4. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていましたか? 今回の制作で、タイルという素材について何か新たに発見したことや感じたこと、可能性などはありましたでしょうか。

貼るもの、均質性のある素材、というイメージがありました。実際には、一つ一つに個性があり、その個性が人の手や重力、熱の伝わり方といった、地球上の作用によって生まれていることに非常に魅力を感じました。はじめて役物の製作をしていただき、タイルの立体的な表現の可能性に改めて期待感を感じています。

5. 実際に、多治見でタイルを制作された感想をお聞かせください。多治見でタイルを製造することの良さ、ここがおもしろかった、驚かされたなど、もしお気づきの点があればお聞かせください。

これまでタイルには工業製品としてのイメージが強く、大量生産大量消費される素材と感じていました。今回、TCTには色味の微妙なカスタマイズをしていただきました。最初の試作品の時から、我々がお伝えしたい空間デザインの意図やニュアンスを正確に捉えていただけた印象がありました。できることやできないこと、製作したあとに起こりうることの事前のご説明も明確だったので、数々のイレギュラーな事例の経験が蓄積されているように感じました。



I IN
2018年に東京で設立されたインテリアデザインオフィス。店舗、レストラン、オフィス、住宅、インスタレーションなど幅広い分野の空間デザインにおいて、モダンラグジュアリーの世界を追求している。そのプロセスは相手の中心に入るように視野を向け、そこにある個性を見つけることからはじまる。あらゆる会話をきっかけに、光、材料、重力といった普遍的な要素に新たな輝きをもたらすことで、感動のある空間を実現している。突き抜けた美しさのあるインテリアからは豊かな未来を感じさせ、人々の記憶に残るデザインは国内外で評価を受けている。
i-in.jp



edit. Nao Takegata / daily press
translate. Ben Davis

The Conran Shop 東京

year

2023

location

東京, 日本

architect

ザ・コンランショップ

method

押出成形

volume

使用面積 57m2

photographer

photo: Yuna Yagi

ザ・コンランショップさんへのQ&A

1. 今回オリジナルタイルを導入してくださったショップは、どのような空間でしょうか。空間自体のデザインコンセプトもありましたら合わせてお願いします。

イギリス発のホームファニシングショップのザ・コンランショップが、2023年11月に麻布台ヒルズという商業施設内にオープンしたザ・コンランショップ 東京店です。日本で7店舗目となる東京店は、約1300㎡という国内最大規模の広さで、初のレストランを併設したショップ空間です。ブランドロゴがグローバルで刷新したり、今年上陸30周年を迎える日本では、昨年から店舗ごとに個性を持たせるなど新たな取り組みが始まっています。「極上の日常」をテーマに掲げる東京店の空間のデザインやディテールを考えていくにあたっては、「fluid space(流動的な空間)」「robust(たくましさ)」「bold(だいたんさ)」「energetic(エネルギッシュ)」「light(光)」「clean(清潔さ)」「balanced(バランスのよい)」というワードを立てて進めていきました。

2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか?また、さまざまな素材がある中で、タイルを使用することにしたのはなぜでしょうか。

お客さまとのコミュニケーションや、お会計対応を行うキャッシュカウンターとして、ショップの中央に2ヶ所設置したレセプションスペースのうちのひとつです。スペースの壁面すべてにタイルを使用しました。

このレセプションスペースの特徴的な壁面のアールを美しく見せるのに、タイルがとても適した素材だと思いました。
また、ザ・コンランショップ 東京店は、タイルの他にも左官(土)、木など時間を内包する素材で構成しています。タイルは建材としては定番のアイテムと言えますが、職人の手によって色も形も丁寧に作られたタイルは、「日常だけど特別、定番でも上質」といえるアイテムを厳選し紹介する東京点の空間を構成する素材にふさわしいと思いました。

3. オリジナルタイルをデザインする際に、特にこだわったポイントはどのような点でしょうか。

色やテクスチャー、目地の色までこだわりました。

4. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていましたか?今回の制作で、タイルという素材について何か新たに発見したことや感じたこと、可能性などはありましたでしょうか。

タイルそのものの特性を引き出すことで、空間自体の魅力も高まると感じました。

5. 実際に、多治見でタイルを制作された感想をお聞かせください。多治見でタイルを製造することの良さ、ここがおもしろかった、驚かされたなど、もしお気づきの点があればお聞かせください。

タイルは焼き物なので、土を練って形にして焼き、一つ一つに違いやムラがあります。
そのことにこそ魅力があると思いました。タイルを製造している現場に伺ってみて、カタログやショールームでサンプルのピースを見るだけでは気づくことのできなかった作り手の試行錯誤が、唯一無二の価値を生み出していると感じました。



ザ・コンランショップ
1973年、テレンス・コンランがイギリス ロンドンにオープン、世界中から厳選した家具や照明、インテリアアイテム、ギフトに加え、オリジナルのアイテムも多く取り揃えるホームファニシングショップ。日本では、1994年に1号店を東京の新宿パークタワーにオープン。現在は世界5カ国で展開。2022年4月、中原慎一郎(ランドスケープ・プロダクツ ファウンダー)が代表取締役社長に就任。
2023年4月、ザ・コンランショップでは世界初のローカル編集、アジアにフォーカスをしたショップ「ザ・コンランショップ 代官山店」を、2023年11月24日、日本では7店舗目の最大規模となる「ザ・コンランショップ 東京店」をオープン。
2024年に日本上陸30周年を迎えるにあたり、同年10月から東京ステーションギャラリーにて展覧会「テレンス・コンランーモダン・ブリテンをデザインをする〔仮称〕」を開催。



edit. Nao Takegata / daily press
translate. Ben Davis

狛江湯

year

2023

location

東京, 日本

architect

スキーマ建築計画

method

乾式プレス成形

volume

使用面積 555m2

photographer

photo: Ju Yeon Lee

長坂 常さんへのQ&A

1. 今回設計された「狛江湯」とは、どのような場所(施設)でしょうか。

都心近郊ながらも自然豊かな狛江市にある創業1955年の銭湯です。番頭の西川さんと話す中で生活インフラとしての役割を終えた銭湯が現代を生きるには、人々の抱える多様な需要に応えることができる場所にする必要があると考え、浴場の他にビアバーやランドリーを併設する計画としました。オープン後は、定期的にマルシェやイベントが開かれ様々な世代の人々で賑わう場所になっており、地域の核としての銭湯の役割を狛江湯は少しづつ取り戻しているように感じています。

2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか?
また、さまざまな素材の中でタイルを用いることにしたのはなぜでしょうか。

西川さんから地域に開いた場所にしたいという要望があり、銭湯の内と外をつなげるデザインにしたいと考えました。今回、浴場のみならず脱衣室洗面台、トイレ、縁側、そしてエントランスの富士山絵など浴場を飛び越えて様々な場所にタイルを使用しているのですが、タイルは色や形を柔軟に検討することができ、また釉薬に泥釉を用いることで防滑性も高くできるため、銭湯という公共性の高い場所において最適な素材だと考えました。

3. タイルのデザインをする際に特にこだわったポイントは何でしょうか。

一つは色です。人の肌とお湯と水、そして植物が美しく見えるタイルの色を、何度もサンプルを製作してもらいスタディを重ねました。次にタイルパターンです。諸説ありますが、銭湯にはつきものの富士山絵や柄タイルには、裸同士の入浴者が気まずくならないよう目のやり場をつくるためや、子供の目を楽しませて大人がゆっくりできるようにするためなど役割があります。
狛江湯では1:1、1:2、2:2の比率の一般的な3種類の規格のタイルを、浴場の空間の凹凸をきっかけに切り替えながら貼ることで自然なタイルパターンをつくり、入浴者の目を楽しませられるようデザインしました。

4. 実際に、多治見でタイルを制作された感想をお聞かせください。
多治見で製造するタイルの良さとは何でしょうか。もしお気づきの点があれば合わせてお聞かせください。

一家に一つの風呂が当たり前となった現代では、生活インフラとしての役割を終えた町の銭湯がデザインの対象となりました。そのような“アップサイクル”という考えが必要とされる時代に、従来のタイルのあり方をアップデートしクリエイティブに制作しようとする多治見のタイルづくりの視点は強みだと思います。
何事においても世界がますます効率化していく中で、オーダーメイドのタイルの製造を維持できている多治見は、それができる数少ない存在として、これから世界にマーケットを広げ需要に応えていくのではないでしょうか。

5. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていますか?
または、タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば教えてください。

今は閉業してしまった銭湯なのですが京都の錦湯での体験が印象に残っています。長い年月の中でところどころタイルが壊れ補修を繰り返しており、お湯にボーッと浸かっているうちにその補修跡がパッチワークのようになっていることに気がつき、いつの間にか目で追ってしまうという体験が心地よく、今回の狛江湯のタイルデザインのインスピレーションになりました。



長坂 常/スキーマ建築計画
1998年東京藝術大学卒業後にスタジオを立ち上げ、現在は千駄ヶ谷にオフィス
を構える。家具から建築、町づくりまでスケール様々、ジャンルも幅広く手掛
ける。どのサイズにおいても1/1を意識し、素材から探求し設計を行い、国内外
で活動の場を広げる。既存の環境の中から新しい価値観を見出し「引き算」
「知の更新」「見えない開発」など、独自な考え方で建築家像を打ち立てる。
代表作にBLUE BOTTLE COFFEE、桑原商店、HAY TOKYOなど。
schemata.jp



edit. Nao Takegata / daily press

all day place SHIBUYA

year

2022

location

東京, 日本

architect

DDAA

method

乾式プレス成形

volume

使用面積 716m2

photographer

photo: Kenta Hasegawa

元木 大輔さんへのQ&A

1. 今回オリジナルタイルを導入してくださったのはどのような場所で、その空間内のどのような場所にタイルを用いたのか教えてください。タイルをオリジナルで作ろうと思ったのはなぜでしょうか。

「all day place shibuya」は、pubの語源である街の「パブリック・ハウス(public house)」をテーマにした、渋谷の日常を感じられるホテルです。1Fには朝から深夜までオープンしているカフェとビアバーが入っており、自由に使える公園のような状態を目指しました。ホテル入り口の1Fの外構から、カフェとビアバー、最上階のスイートルームのお風呂まで同じ素材でデザインするためにタイルを選択しました。

2. 今回デザインされたタイルのデザインコンセプトをお聞かせください。

緑色のタイルは、外構の植物との相性から色を決めました。1Fに入っているデンマークのクラフトビール、ミッケラーから、「デンマークの人から見たら日本を感じる、日本の人から見たらデンマークを感じるデザインにしたい」というリクエストがあり、美濃焼の一つである織部の代表的な緑色を使うことにしました。他の素材との組み合わせであえてそう見えないようにしているのですが、実はとても日本的な色です。

3. 実際にタイルをオリジナルで制作してみたご感想をお聞かせください。

釉薬の多様さと奥深さに感動しました。

4. 今回多治見でオリジナルのタイルを制作をされてみて、タイル産地としての多治見の個性や強みといえばどのような点だと思いますか?

時間はかかりますが、一から色を調整することができ、最終的には外構の床にも使える防滑仕様にも対応していただいた点はとても良かったです。



元木 大輔 / DDAA
2010年元木大輔によって設立。建築、都市、ランドスケープ、インテリア、プロダクト、コンセプトメイクあるいはそれらの多分野にまたがるプロジェクトを建築的な思考を軸に活動する建築・デザイン事務所。2019年、実験的なデザインとリサーチのための組織としてDDAA LAB設立。2021年、第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館参加。
dskmtg.com

The North Face Sphere

year

2022

location

東京, 日本

architect

Sawada Hashimura

method

押出成形

volume

使用面積 55m2

photographer

photo: Kenta Hasegawa

橋村 雄一さんへのQ&A

1. 今回オリジナルタイルを導入してくださったプロジェクトを簡潔にご説明いただきつつ、空間デザインのコンセプトについてお聞かせください。

The North Faceの店舗をメインとする新築ビルで、私たちは建築から内装まで一貫してデザインしました。狭小な敷地なので、垂直方向の伸びやかさを感じさせる建築を目指しました。
地下1階から3階までの4フロアが店舗になっていますが、階層ごとの分断を避けるために地下と1階、2階と3階をそれぞれ吹抜けでつなぎ、内装の雰囲気も2フロア1組でまとめました。地下と1階は建物全体を支える基礎として鉄筋コンクリートで造り、内装も大地に由来する漆喰とタイルを使用しています。上階は軽快な鉄骨造で、内装には木を中心に用いています。


2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか。また、なぜその場所にタイルを用いることにしたのでしょうか。

建物の最も低い部分である地下の床にタイルを使用しています。この店舗は1階の大半が吹抜けなので、入ってすぐ見下ろすと地下の床が印象的に見えます。

3. 今回、タイルをオリジナルデザインで一から作ろうと思ったのはなぜでしょうか。

決して広い面積ではありませんが、マテリアルパレットのなかでも特に重要なものの一つだったので、この場所ならではのものにしようと考えました。

4. 今回デザインされたタイルのデザインコンセプトをお聞かせください。

地下の最低部ということで「低きを流れる水」の連想から瑞々しいタイルを目指しました。ベースは白色ですが、55mm角の小さめのタイルのなかに仄かに青みがかったグレーが色ムラとして入ることで、自然なテクスチャーが生まれました。

5. 実際にタイルをオリジナルで制作してみたご感想をお聞かせください。

製法の違いによる特徴などを教えていただき、今回目指すものが表現できるまで粘り強くお付き合いいただきました。

6. さまざまな建材の中で「タイル」という素材にはどのようなイメージをお持ちですか?

タイルはほかとは異なる時間を生きる素材だと思います。窯のなかで時間を止められた、変化しないものの象徴です。

7. タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば、ぜひお聞かせください。

ロンドンに数年間住んでいましたが、帰国してみると日本の街にはタイル貼りの建物が他国と比べてとても多いことに気づきました。私たちは普段から見慣れすぎていますが、実はタイルが日本の街の風景を形成する大きな要素になっているのが興味深いです。

8. 今回多治見でオリジナルのタイルを制作してみて、タイル産地としての多治見の個性や強みといえばどのような点だと思いますか?

叡智と経験が集積していることはもちろん、TAJIMI CUSTOM TILESのように新しい取り組みにも積極的なところだと思います。



橋村 雄一 / Sawada Hashimura
多摩美術大学 、University of East London (Dip.Arch)にて建築を学んだ後、Tony Fretton Architects 、Carmody Groarke、新素材研究所に勤務。2015年に澤田航と共同でSawada Hashimuraを設立し、建築・インテリア・アートインスタレーションなど空間にまつわる設計を中心に活動している。
sawadahashimura.jp

Bathroom at Salon 94

year

2022

location

ニューヨーク, アメリカ

architect

Max Lamb

method

鋳込成形

volume

使用面積 34m2

photographer

photo: Clemens Kois

NUMBER SUGAR 表参道店

year

2021

location

東京, 日本

architect

ya Inc.

method

押出成形

volume

使用面積 67m2

photographer

photo: Kenta Hasegawa

山本 亮介さんへのQ&A

1. 今回オリジナルタイルを導入してくださったプロジェクトを簡潔にご説明いただきつつ、空間デザインのコンセプトについてお聞かせください。

手作りキャラメルの製造販売をする「NUMBER SUGAR」の物販店舗です。
キャラメルの持つ要素を店舗空間に取り込むことで、 白い箱に包まれて陳列されるキャラメルにお客様の期待感が増すような店舗空間を目指しています。

2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか。また、なぜその場所にタイルを用いることにしたのでしょうか。

空間の腰から下を埋め尽くすようにタイルを使用しています。
それにより、陳列される商品たちをより魅力的に見せるための背景となり得ると考えたからです。

3. 今回、タイルをオリジナルデザインで一から作ろうと思ったのはなぜでしょうか。

商品と同様に自然素材のある空間であって欲しいと考えて「土」から作られるタイルを使いたいと考えました。その時に、カタログからセレクトした既製のタイルを使用して空間を作るのではなく、形状や質感、色味の段階から商品との相性を考えた空間を作りたいと考えたからです。

4.今回デザインされたタイルのデザインコンセプトをお聞かせください。

タイル単体に特殊な表情は求めず、タイルが集合した時に、色むらや歪みなどの個体差が見えてくるような表情を持たせたいと思いました。
そこで、規則的なグリッドラインを水平方向にも垂直方向にも敷き詰めることで、そこに現れるタイルの歪みや表情の違いをより感じられるようにしています。
角部分には立体的に成形してから焼成したタイルを使用することで、キャラメルらしい塊としての印象を与えています。それは、手作業で切り出すため完全な矩形にはならないキャラメルの形状と通じます。
ちなみにタイルのプロポーションはキャラメルと同じ比率で決まっています

5. 実際にタイルをオリジナルで制作してみたご感想をお聞かせください。

実際に多治見でタイルの製造工場を見せて頂き、制作の過程を理解しながら、幅広く検討を進めることができました。
単純な見た目だけではなく、焼成前の成形段階からいくつかの方法を比較し、協議しながら作っていけたことで
表層的にならずにものづくりができました。

6. さまざまな建材の中で「タイル」という素材にはどのようなイメージをお持ちですか?

スペックすることで出来上がる表情が予めわかっている「製品」というイメージでした。
しかし、工夫を加えてなにかを生み出すことができる「素材」であるというイメージに変わりました。

7. タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば、ぜひお聞かせください。

振り返ってみると今まで設計をしてきた中で、タイルを意匠の中心において考えたことはあまりありませんでした。
それはデザインされたものを借りてきている印象を持ってしまっていたからですが、今回の経験を通して「タイル」から考えるのではなく、もっと戻って「土」から考え始めるという癖がついたように思います。

8. 今回多治見でオリジナルのタイルを制作してみて、タイル産地としての多治見の個性や強みといえばどのような点だと思いますか?

多治見には様々な工法に特化した熟練の工場があり、制作したいものに合わせて様々な工場と協力ができる心強い場所だと思いました。同時に同世代の友人達が多治見にもいて、若い世代が新しいモノや場を生み出している印象がありました。


山本 亮介 / ya Inc.
2011年東京藝術大学大学院修了後、スキーマ建築計画に所属。2018年にyaを設立。建築・インテリア・商業空間・家具の設計など、空間に関わる設計活動を行う。
設計過程における場所と人との対話を重要視して空間に反映し、丁寧に筋の通った空間を組み立てていく。近作にNUMBERSUGAR、Sta.、Found MUJI展: いいものに巡り会う旅の会場デザインなど。
ya-a.jp