永山 祐子さんへのQ&A
今回オリジナルタイルを導入してくださったスペースは、どのような空間でしょうか。
新宿・歌舞伎町にオープンした、地上48階地下5階建て「東急歌舞伎町タワー」の6 – 8Fにある客席数約900、自由なレイアウトが可能な劇場です。「THEATER MILANO-Za」は、かつてこの場所にあった新宿ミラノ座の名を継承して名付けられています。
2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか?また、さまざまな素材がある中で、タイルを使用することにしたのはなぜでしょうか。
劇場「THEATER MILANO-Za」のホワイエの床仕上げに使用させていただきました。タイルは独特の風合い、質感を持っており、個性のある素材です。空間に個性を持たせたい時に使用しています。最近は特に、マテリアルを選ぶときに、よりフィジカルに訴えかける質感を大切にするようになりました。バーチャル空間も私たちの日常に当たり前に使われるようになりましたが、手触りなど五感に訴える質感は、リアル空間だからこそ得られる体験につながります。
3. オリジナルタイルをデザインをする際に、特にこだわったポイントはどのような点でしょうか。
光との関係です。光の当て方によって陰影、反射が変わるのでその点を一番意識しました。表面の凹凸の微妙な差異、釉薬の濃さの微妙な差異でガラッと印象が変わるので最後のイメージをどこに持って行くのかを決めるのはなかなか大変でした。
4. 実際に、多治見でタイルを制作された感想をお聞かせください。多治見で製造するタイルの良さとは何でしょうか。もしお気づきの点があれば合わせてお聞かせください。
本当にたくさんの試し焼をしていただきました。それほど量の多いオーダーではないにも関わらず、空間の大事なポイントであったので、私たちもこだわり、無理を言ってきましたが、それに丁寧に答えてくださいました。
5. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていますか?または、タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば教えてください。
タイルはとてもサスティナブルな素材です。土を焼いて作るという基本的な製法で作られるタイルは紀元前からずっと継承している素材です。リノベーションする際に古民家に現場調査に入ることも多いのですが、他の素材が風化する中、タイルだけは貼られた時の記憶を持ったままそこに存在し続けているのを目にします。風化して色を失った世界にハッとするような色を有したまま存在するタイルの光景が強く記憶に残っています。
永山 祐子 / 永山祐子建築設計
1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998−2002年青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。2020年~武蔵野美術大学客員教授。主な仕事、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」、「丘のある家」、「カヤバ珈琲」、「木屋旅館」、「豊島横尾館(美術館)」、「渋谷西武AB館5F」、「女神の森セントラルガーデン(小淵沢のホール・複合施設)」「ドバイ国際博覧会日本館」、「玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ」、「JINS PARK」など。国内外で受賞多数。yukonagayama.co.jp
高須 咲恵さんへのQ&A
1. 今回、劇場のホワイエの床にタイルをメディアにアートワークを制作されました。設計の永山さんからは具体的にどのような依頼、希望があったのでしょうか。タイルを用いることは前提条件でしたか?
永山さんが設計された空間や印象的な壁面照明、そして劇場という空間であることから、ホワイエには人が集まる広場のような役割があると思いました。そこで、元々は、タイル作品の想定ではありませんでしたが、劇場入り口からホワイエまでのタイル空間を作品にして、普段、美術館などアートのある空間ではできない、作品に触れたり、踏むという行為が可能な場所にしました。
2. 作品のテーマを教えてください。
タイトルは patchwork my cityです。床タイルに、巨大な手や足跡、鍵などの絵柄をレーザー切削で削り出しました。特にホワイエの巨大な掌は指紋に重ねて東京の地図やドローイングをコラージュしていて、巨大な地図の上を歩きまわるように作品を鑑賞することができます。二階からホワイエを覗き込むと巨大な手の全貌が見え、自分がそこにいた時には見えなかった図像が見えるようになっています。演劇がかつて広場、有象無象が行き交う公共空間で生まれてきたことから着想を得ており、タイルが続く床自体が広場となって人が歩きながら鑑賞できる作品です。
3. 作品を作る上で特にこだわったポイントがあれば教えてください。また、タイルを用いて作品を作るプロセスにおいて面白かったこと、発見したことや、逆に難しかった点などがれば教えてください。
最大で全長12mの図像を作り出すために683枚のタイルを使用しています。レーザー切削したタイル1枚1枚の釉薬のかかり具合や、レーザーの具合によって出現する図柄が変化したため、683枚全て並べて、1枚1枚様子を見ながら手彫りやレーザーで再調整をしました。人間と機械の両方の力を併せた作品だと思います。
4. 多治見のタイル製造の良さ(強みなど)とはなにか、もしお気づきの点があれば合わせてお聞かせください。
タイル切削を用いた巨大なタイル作品制作について、技術者の方と終始相談しながら実現に向かうことかできました。この作品自体が今振り返っても困難と発見の繰り返しだったと思いますし、最後まで貫徹していただいたことを感謝し嬉しく思っています。
5. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていますか?または、タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば教えてください。
割れるというイメージを持ちながらも外壁や人に踏まれる道に使用されています。制作や補修の効率を考えるとアスファルトやモルタルなどよりも効率が悪いところや、平面的でありながらタイル自体に重量もあり、1枚ずつの釉薬も微妙に異なるところが面白く気に入っています。釉薬を含め考えるとカラーリングは無限で、タイルそのものに色気がある稀有な建材だと思います。
高須 咲恵
2012年SIDE COREとして活動開始。公共空間におけるルールを紐解き、思考の転換、隙間への介入、表現やアクションの拡張を目的に、ストリートカルチャーを切り口として「都市空間における表現の拡張」をテーマに屋内・野外を問わず活動している。
edit. Nao Takegata / daily press
THEATER MILANO-Za
2024
東京, 日本
永山 祐子, 高須 咲恵
乾式プレス成形
使用面積 190m2
photo 1. Keizo Kioku, photo 2&3. Daici Ano