長坂 常さんへのQ&A
1. 今回設計された「狛江湯」とは、どのような場所(施設)でしょうか。
都心近郊ながらも自然豊かな狛江市にある創業1955年の銭湯です。番頭の西川さんと話す中で生活インフラとしての役割を終えた銭湯が現代を生きるには、人々の抱える多様な需要に応えることができる場所にする必要があると考え、浴場の他にビアバーやランドリーを併設する計画としました。オープン後は、定期的にマルシェやイベントが開かれ様々な世代の人々で賑わう場所になっており、地域の核としての銭湯の役割を狛江湯は少しづつ取り戻しているように感じています。
2. その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか?
また、さまざまな素材の中でタイルを用いることにしたのはなぜでしょうか。
西川さんから地域に開いた場所にしたいという要望があり、銭湯の内と外をつなげるデザインにしたいと考えました。今回、浴場のみならず脱衣室洗面台、トイレ、縁側、そしてエントランスの富士山絵など浴場を飛び越えて様々な場所にタイルを使用しているのですが、タイルは色や形を柔軟に検討することができ、また釉薬に泥釉を用いることで防滑性も高くできるため、銭湯という公共性の高い場所において最適な素材だと考えました。
3. タイルのデザインをする際に特にこだわったポイントは何でしょうか。
一つは色です。人の肌とお湯と水、そして植物が美しく見えるタイルの色を、何度もサンプルを製作してもらいスタディを重ねました。次にタイルパターンです。諸説ありますが、銭湯にはつきものの富士山絵や柄タイルには、裸同士の入浴者が気まずくならないよう目のやり場をつくるためや、子供の目を楽しませて大人がゆっくりできるようにするためなど役割があります。
狛江湯では1:1、1:2、2:2の比率の一般的な3種類の規格のタイルを、浴場の空間の凹凸をきっかけに切り替えながら貼ることで自然なタイルパターンをつくり、入浴者の目を楽しませられるようデザインしました。
4. 実際に、多治見でタイルを制作された感想をお聞かせください。
多治見で製造するタイルの良さとは何でしょうか。もしお気づきの点があれば合わせてお聞かせください。
一家に一つの風呂が当たり前となった現代では、生活インフラとしての役割を終えた町の銭湯がデザインの対象となりました。そのような“アップサイクル”という考えが必要とされる時代に、従来のタイルのあり方をアップデートしクリエイティブに制作しようとする多治見のタイルづくりの視点は強みだと思います。
何事においても世界がますます効率化していく中で、オーダーメイドのタイルの製造を維持できている多治見は、それができる数少ない存在として、これから世界にマーケットを広げ需要に応えていくのではないでしょうか。
5. タイルという素材にはどのようなイメージを持っていますか?
または、タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば教えてください。
今は閉業してしまった銭湯なのですが京都の錦湯での体験が印象に残っています。長い年月の中でところどころタイルが壊れ補修を繰り返しており、お湯にボーッと浸かっているうちにその補修跡がパッチワークのようになっていることに気がつき、いつの間にか目で追ってしまうという体験が心地よく、今回の狛江湯のタイルデザインのインスピレーションになりました。
長坂 常/スキーマ建築計画
1998年東京藝術大学卒業後にスタジオを立ち上げ、現在は千駄ヶ谷にオフィス
を構える。家具から建築、町づくりまでスケール様々、ジャンルも幅広く手掛
ける。どのサイズにおいても1/1を意識し、素材から探求し設計を行い、国内外
で活動の場を広げる。既存の環境の中から新しい価値観を見出し「引き算」
「知の更新」「見えない開発」など、独自な考え方で建築家像を打ち立てる。
代表作にBLUE BOTTLE COFFEE、桑原商店、HAY TOKYOなど。
schemata.jp
edit. Nao Takegata / dairy press
狛江湯
2023
東京, 日本
スキーマ建築計画
乾式プレス成形
使用面積 555m2
Ju Yeon Lee