二俣 公一さんへのQ&A
1. 今回オリジナルタイルを導入してくださったプロジェクトを簡潔にご説明いただきつつ、空間デザインのコンセプトについてお聞かせください。
アーツ&サイエンスの福岡店のショップ計画。すぐそばに大濠公園がある閑静な住宅エリアで、この場所の良さとショップの持つ雰囲気が掛け合わさったようなショップが良いと思いました。今回使用したタイルは、その公園内にあり、同じくショップからほど近い「福岡市美術館」に使用されているタイルを再現したものです。建築家・前川國男氏が用いたこのタイルは、釉薬がかかった表情豊かなタイルで、このエリアの象徴のようでもあり、ショップとの相性も良いと感じました。
2.その空間内のどのような場所にタイルを使用していますか。また、なぜその場所にタイルを用いることにしたのでしょうか。
カウンター背面の大きな壁面のほか、ディスプレイやショーウィンドウの壁として使用しています。また外部の床や、アクセサリーなどの小物をディスプレイするパーツにも同じタイルを用いました。もともとカウンター背面には構造上撤去出来ない壁があったのですが、これにタイルを貼り込むことでショップの象徴的なイメージが作れると考えました。また、壁だけでなく小さなパーツにまで展開することで、よりそのイメージを強く出来ると思いました。
3. 今回、タイルをオリジナルデザインで一から作ろうと思ったのはなぜでしょうか。
もともと福岡市美術館に使用されているタイルもオリジナルで作られているのですが、調べたところ、当時作られていた場所では現在製作が難しいことが分かりました。そのような状況の中、サイズはもちろん、色合いや質感などの再現性を高めようと思ったときに今回の製作に至りました。
4. 実際にタイルをオリジナルで制作してみたご感想をお聞かせください。
当初、微妙な色の違いを複数の色のタイルを製作することで表現しようとしていましたが、最終的には同じ色の素材から出来たタイルでありながらも、釜の中の温度差によって生まれる色差を利用することになりました。このような、ある種の不完全さというか、計算できないグラデーションはタイルならではの豊かさだと改めて感じました。
5. さまざまな建材の中で「タイル」という素材にはどのようなイメージをお持ちですか?
大きな面で用いるときによく感じますが、均一なようで均一ではない素材だと思います。特に釉薬を使ったタイルでそれが分かります。完全に均一なものは意外とどこか違和感があって、こういう不均一な表情を豊かに感じる感覚は、多くの人が持ちうる共通の感覚のような気がします。
6. タイルにまつわるパーソナルな記憶や思い出などがもしあれば、ぜひお聞かせください。
僕自身、古い木造住宅で育ったのですが、水回りに使用されていた水色の100角タイルは今でも記憶に残っています。普段意識することはありませんが、無意識にタイルに少し懐かしさを覚えるのは、このようなイメージが自分の中に残っているのかもしれません。
7. 今回多治見でオリジナルのタイルを制作してみて、タイル産地としての多治見の個性や強みといえばどのような点だと思いますか?
色や質感などの細かなニュアンスに対する調整力が強みだと感じました。今回特にベースとなるモチーフがあったため、その再現を試みていただく中で、そのことをより強く感じました。
二俣 公一 / ケース・リアル
空間・プロダクトデザイナー。大学で建築を学び、卒業後すぐに自身の活動を開始。現在は、福岡と東京を拠点に空間設計を軸とする「ケース・ リアル (CASE-REAL)」とプロダクトデザインに特化する「二俣スタジオ (KOICHI FUTATSUMATA STUDIO)」両主宰。国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける。
casereal.com
ARTS & SCIENCE 福岡
2021
福岡, 日本
ケース・リアル
押出成形
使用面積 91m2
photo: Hiroshi Mizusaki